コロナ禍による規制が緩和された今、インバウンド需要が回復傾向に向かっています。
そこで、本記事ではインバウンドビジネスに関わる状況や戦略、ターゲットの特徴や課題を紹介します。
まずはじめに、インバウンドとは、海外からの旅行客が日本にやってくることを指す言葉です。
2023年に入り、新型コロナウイルス対策の規制が緩和されたことで、国内外問わず旅行客が増え、インバウンドという言葉も再びよく聞かれるようになりました。
では、インバウンドビジネスはというと、訪日する外国人旅行者をターゲットとしたビジネス全般から、広くは、インバウンドビジネスを支援するインフラ事業やIT産業まで、訪日外国人旅行者に関わるもの全てが対象です。
2019年12月、訪日外国人客数は、約252万人でした。
しかし、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、翌年3月以降、訪日外国人客数は減少し、インバウンド需要が見込めない時期が長く続きました。
回復の兆しが見え始めたのは、昨年2022年の8月ごろで、その時期から訪日外国人客数は少しずつ回復しています。
感染症拡大以前の水準にはいまだ達していませんが、近年では円安基調にもあるため、インバウンド拡大は、今後も見込まれるでしょう。
また日本政府は2030年における訪日外国人の目標値を6,000万人と掲げています。コロナ禍を経てもこちらの目標値の変更されていませんので、引き続き国を挙げてインバウンド政策に取り組んでいくことが予想されます。
人口の減少期にある日本では、国内市場の限界による売上減少を防ぐためにも、様々な企業がインバウンドビジネスに取り組んでいます。
地方創生とも親和性が高く、国や地方自治体にも積極的な動きが見られます。
訪日外国人に関わるビジネスといえば、旅行・交通・宿泊施設・観光施設・ショッピング・飲食などは想像に難くないでしょう。しかし、それ以外にもWi-IFiIなどの通信インフラ関連、言語対応に関するサービスや技術、国外向けのプロモーション、メディア、アプリ開発、外国人旅行者に関するマーケティングやコンサル業、越境販売事業などにもインバウンド増加に伴う恩恵やビジネスチャンスが考えられます。
医療業界ではメディカルツーリズムが注目され、ウェルネスツーリズムでは食品栄養士監修のヘルシー食や、寺院の宿坊が提供されるなど、旅行体験も多様化しています。
インバウンド増加に伴う受入対策、旅行者よる需要、インバウンドの誘致施策などが活性化するなかで、全ての業界にビジネスチャンスがあるといえます。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で低迷した経済を再度活性化させるためには、既存の方法に加えて、新しいアプローチが必要となるでしょう。
そのためには、日本の魅力を上手に伝えられるような情報を発信することが重要です。
SNSが発達したことで、情報拡散力は大きくなりました。写真だけではなく、動画での情報も簡単に提供できる時代です。まずは、SNSを通した拡散・発信から、情報サイトへと誘導するのが良いでしょう。
その際にも、旅行者はどのようなメディアでどのようなコンテンツから情報を収集しているのかを意識することが大切です。
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旅行者にとって、言葉も文化も異なる他国での体験は、新しい発見も多い反面、困ることも多いものです。良い思い出となるように、旅行者の「困った」を取り除くことも重要になります。
さらに、帰国後の旅行者は、旅先で発見したものを知人や友人に紹介したりお土産を渡したりします。それらを気に入った人々は、日本旅行に興味を持つかもしれません。また、帰国後も旅行中に気に入ったものは自国でも手に入れたいと思うことでしょう。リピート訪問や帰国後の消費を促す施策もインバウンドビジネスとして忘れてはいけません。
このように、旅行前から旅行後までの外国人旅行者の行動を想像し、彼らの視点に立つことが重要です。では、外国人観光客の視点に立つ方法にはどのようなものがあるでしょうか。以下に例を提示します。
外国人観光客は「東京」「大阪」「京都」というような型にはまった観光だけではなく、日本ならではの体験を望んでいます。何度も日本を訪れてもらうためにも、より体験を軸にしたサービスを提供しましょう。
例として、飛騨高山では「里山の発信」という取り組みを行っています。
飛騨高山は、里山を中心とした日本の原風景を楽しんでもらう取り組みを積極的に行い成功しています。
「SATOYAMA EXPERIENCE」では、「暮らしを旅する」をテーマに、地元の文化・歴史を説明しながら街を駆け巡るサイクリングツアーや、伝統古民家を活用した宿泊体験等を展開しています。
寺院での座禅や茶道、華道などの日本文化の体験から、コンビニや居酒屋、ラーメンや牛丼といった、より日本人の普段の生活に近い体験も人気が高まっています。
前章でご紹介した通り、日本人にとって、それほど目を惹くようなものでなくとも、外国人にとっては特別なものと捉えられるケースがあります。勿論、その逆も然りです。
日本人と外国人が同じ価値観・趣向を持っているとは限りません。
したがって、インバウンドビジネスを成功させるためには、外国人の目線に立って、「どのようなことに興味を持つのか」を把握することが大切です。
さらに、旅をする前の対策だけではなく、旅の途中での検索やリサーチにも対応できるようにしておきましょう。
リピートして日本を訪れる外国人は、事前の計画を立てずに、その場で旅行を楽しむ場合があります。
そのような訪日外国人観光客のケースも頭に入れながら、マーケティング調査を徹底して行いましょう。
マーケティング調査の一例としては以下が挙げられます。
旅行中に困らないことが、良い思い出の第一歩です。外国人旅行客にとっての課題は下部でも詳述しますが、外国人観光客へのアンケート調査(※)によると、旅行中に困ったことの約半数が言語に関する壁を感じているという結果が出ています。
流暢な言語対応はできずとも、頻繁に質問されることや、会計時に必要な情報など、最低限の対応をするだけでもインバウンド旅行者を受け入れやすくなるでしょう。
施設の開館時間や料金、予約などに関する不安を払拭し、旅行中もスムーズに望んだ体験をできるようにすることが、満足度を高める対策の一つになります。
また、多言語対応のWebサイトの用意は、訪日外国人を呼び込むためにも役立ちます。
日本語、英語だけではなく、訪日比率の高い中国語や韓国語を対応させるとよいでしょう。
以下に、2023年1~5月で来日した外国人観光客数を国別ランキングで紹介します。
インバウンドビジネスを考えるうえでの、ターゲット別の要点を紹介します。
高所得者向けインバウンドビジネスの事例をご紹介します。
いわゆる富裕層と呼ばれる方々が、日本旅行に求めているものは、洗練されたサービスです。
日本ならではの商品を手に入れることも目的の1つといえますが、観光案内で待たされないことや、特別な体験をすることなどを求めている傾向は強いといえます。
高所得者の訪日外国人は、待ち時間なしで乗り物に乗れるならば、高い対価を支払ってでも、そちらを選択する傾向にあります。つまり、お金よりも体験・サービス・時間を大切にするのです。
高所得者の訪日外国人は、その場所ならではの価値を重んじます。その思考をよく理解して、新しい価値を創造することが重要です。
ゼロコロナ政策の影響で、以前は多かった中国人観光客が減り、アメリカやヨーロッパ、オーストラリアなどの欧米諸国に住む観光客が増えています。
欧米豪圏に住む観光客の日本における旅行の特徴は以下の通りです。
欧米豪圏から来る人々は、日本の滞在日数が長い傾向にあります。日数が多いため、1人あたりの消費額は中国人と同様に高いというデータも出ています。
旅行日数が長い分、一か所の観光地を訪れるのではなく、東京・京都・大阪を中心に複数都市を訪れるケースが大半を占めます。
日本国内に長期間滞在し、周遊する欧米諸国に住む観光客であれば、あまり知られていない地域や地方へ誘致できるチャンスがあるでしょう。
滞在日数が長く、複数都市を移動する傾向にある欧米諸国に住む観光客の日本旅行は、交通費の利用額が高い傾向にあります。
移動手段としては、レンタカーよりも公共交通機関の利用が好まれています。
これら3つの特徴から、欧米豪圏からの訪日客は、旅マエの準備期間が長いと想像できるでしょう。
複数箇所を訪れるために、入念に情報収集をして旅行の計画を立てていると捉えられます。
実際の交通手段や費用、店舗詳細など、より実用的な情報を提供することが重要です。
前述のように欧米諸国に住む訪日客数が増加していると述べましたが、日本から比較的近いアジア圏からの観光客の割合はいまだに高い傾向にあります。
多言語システムの導入は、英語だけではなく、訪日客の多い東アジアの言語にも対応する必要があるでしょう。
また、中国や韓国、台湾や香港からの訪日外国人客は、日本に再度訪れる可能性が高いとされています。
観光・レジャー目的の訪日外国人旅行者のリピーターの国籍別構成比は以下のとおりです。
上記を合計すると、8割超のリピーターは東アジア近隣4ヶ国・地域といえます。
また、訪日回数の増加とともに1人当たり旅行支出が高くなる傾向があり、特に「10回以上」の客層では1回目に比べ2~4割程度高いという結果が出ています。
何度も訪れていると、主要都市だけではなく地方へ訪れる機会も増えてくるという結果も出ており、地方の需要も十分に期待できるでしょう。
しかし、特に地方部では、キャッシュレス化やフリーWi-Fiなどの整備が十分ではないところも多く、改善の余地があるといえます。
ここで、青森県で訪日外国人数が急増した事例をご紹介します。
青森県では、観光地の詳細や、伝統芸能を体験できる施設などを中国の旅行会社にアピールしました。
また、県内の観光情報サイトやパンフレットの多言語化を導入し、SNSでも多言語で情報を発信したのです。
広報活動の強化により、青森と中国・天津間の航空便が就航し、訪日外国人数の増加につながりました。
インバウンドビジネスの前提として、訪日外国人客を迎える環境も重要です。また、課題にこそビジネスチャンスがあるとも言えます。
ここでは、インバウンドビジネスに関する状況別の課題と、その対策について解説します。
ここでは訪日外国人客が、日本で困ってしまうことについて解説します。
2019年9月~12月に行った観光庁の調査によると、全般的に旅行中に「困った」割合が減少する一方で、新たに追加された「ゴミ箱の少なさ」が困ったことの1位となりました。食べ歩きや日本の自動販売機を楽しむ旅行者も多く、ゴミ箱に困ることも多いことでしょう。
「ゴミ箱の少なさ」の項目が追加される以前、同じく観光庁の調査によると、訪日外国人旅行者が日本で困ったことの第1位は、3年連続で「施設等のスタッフとのコミュニケーション」でした。困った割合としては下がってきていますが、継続して高い傾向にあり、第4位には「多言語表示の少なさやわかりにくさ」が入っています。「言葉の壁」によるコミュニケーションに対する困惑や不満が多いことがうかがえます。
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観光に対するインフラ整備が、完全に整っていないことが課題として挙げられます。
特に地方では、整備が遅れている状況はより多く見られるといえるでしょう。
フリーWi-Fiやキャッシュレス決済など、都市部では当たり前のものを積極的に導入することが求められます。
また、公共交通機関の利用についても、「便利」と答えた割合が都市部に比べ地方部が顕著に低く、地方におけるモビリティの整備も課題と言えるでしょう。
観光客を受け入れる日本人側に立って、インバウンドビジネスにおける課題と対策を考えてみましょう。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、外出自粛が求められ、観光関連事業の雇用が大きく流出しました。
特に人手不足の多い業種は、宿泊業と飲食業です。
あるホテルでは、従業員不足が原因で、需要はあるものの全室稼働できないという事例が発生しています。
観光関連事業での人手不足の背景は、給与や休暇の少なさがあります。インバウンド需要が再び高まっているため、雇用条件の改善は早急にすべきでしょう。
また、雇用条件の改善のほかに、AI技術の導入で問題が解決できる可能性もあります。
自動チェックインの機械やAIによる質問対応などの設備投資は、人手不足を解消する1つの対応策です。
訪日観光客と観光地に住んでいる住民とのトラブルが考えられます。
観光客が地域のマナーを守らなかったり、騒音被害を発生させたりなどがあれば、住民から苦情が出る可能性があります。
この課題の対策としては、入場制限を設ける、その周辺観光地の知名度を向上させるなどがあります。
観光客と住民、両者が気持ちよく過ごせるような対策を講じましょう。
訪日外国人を受け入れる際、新型コロナウイルス感染症に対する観光庁のガイドラインを遵守する必要があります。
例えば、入国に関する決まりや、飲食店において体温計を設置するなどが挙げられます。
観光庁が発信するガイドラインをしっかりと確認することが大切です。
地域次第では、インバウンド政策による経済効果に差があります。
主要都市部以外の地域では、訪日外国人を誘致するための対策が、さらに求められるでしょう。
訪日外国人客の主な行き先は、東京・大阪・京都などの世界的に知名度が高く、主要な都市に集中していることが現状です。
旅行先が主要都市部に集中している原因としては、地方部における知名度の低さや、アクセス面で懸念点が払拭されていないことが挙げられます。
その一方で、地方への旅行は自然や歴史的建造物などの大きな観光資源があり、都市部では体験できない魅力が多くあります。
適切に情報を発信して、地域を活性化させましょう。
そもそも日本では、DMOの概念が浸透しきっていません。
DMOとは、地方部のインバウンドにおける地盤強化のために、地域づくりの司令塔として機能している組織です。
今後は、DMOが中心となって自治体と民間の連携を促進する必要があります。
マーケティングの効果を最大限に活かし、地方への訪日外国人誘致を目指しましょう。
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本記事では、インバウンドビジネスの解説やモデル事例の紹介、課題と対策について見てきました。
長い自粛期間を終えた今、インバウンド需要が高まってきています。
インバウンド増加に向けて、また、増加に伴う課題の解決や、増加したインバウンド旅行者に、日本の素晴らしい体験、サービスや商品を知ってもらうためにできることがないか、あらためて検討してみては如何でしょうか?
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